伝説の叔父

tak

2017年12月08日 19:41



 わが一族では、伝説的に語られる叔父。
 ミカン箱を机に勉強し、かんなわから旧制第五高等学校を経て、東京帝国大学の法学部に入学した。
 外交官を目指していたそうだ。
 そして、入学から1週間ほどして、召集令状が彼のもとに届いた。

 一族はみな、同じ墓所に入っているが、この叔父だけは別の墓石をしつらえられて、祭られている。
 ただし、その墓所に遺骨は収められていない。
 第二次世界大戦後シベリアに抑留され、その後北朝鮮で病死し、故国に帰ることができなかったと聞き及んでいる。
 はかなくも、叔父の夢は異国の地に散り果ててしまった。

 叔父の苦しみを少しでも理解しようと、この夏の命日にお参りする前に、山崎豊子の「不毛地帯」を読んだ。
 シベリア抑留は、想像を絶する過酷な環境だった。
 怜悧なたたずまいのこの叔父は、どのような辛酸をなめたのか。

 私が2歳のころに亡くなった祖父は、私をそれはそれはかわいがってくれたという。
 私の叔母は、この叔父の遺志を是非私に継いでほしいと、ことあるごとに語っていた。
 残念ながら私は全く違う道に進んでしまったけれど、叔父が生きていたら、今のこの世界をどのように見つめるだろうか。
 

 

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